父母の異なる兄弟姉妹が相続人のときの相続問題ークリスマスの贈り物 

昔、あるところに仲の悪い夫婦がいました。二人の間には年子であるAさんとBさんという二人の娘がいましたが、Bさんが生まれて間もなく夫婦は離婚し、AさんとBさんは母の元で育ちました。

父は離婚してから養育費も支払わず、二人の娘に会うこともなく、やがてその音信は途絶えました。

Aさんは理性と品位が衣をまとったような才気あふれる女性であり、異性には何の関心もなく独身を通し、多方面で活躍して財をなしました。

Bさんは太陽のように明るく活発な女性であり、良縁を得て一男二女に恵まれました。

AさんとBさんは相性が良く、母亡き後も仲良き姉妹でした。

Bさんと違って、健康面に不安のあるAさんでしたが、還暦を迎えた頃、心臓の病で入退院を繰り返し、みるみる痩せ細っていきました。桜の咲くころ、Bさんが入院中のAさんを見舞ったとき、AさんはBさんに対し、「医師からあと数か月しかもたないと言われている。遺言書を書いて遺産をBちゃんに渡そうと思う。」と弱弱しく言いました。

ショックを受けたBさんは、Aさんに対し、「遺言書なんて縁起でもない。お姉ちゃんはずっとずっと長生きするんだから。遺言書を書いても受け取らないからね。」と言いました。

その3か月後、Aさんは天に召されました。悲しみも一段落した頃、Bさんは夫の協力の下、Aさんの残した財産について相続の手続をすることとなりました。その財産はタワーマンション、預貯金、株式等相当な額になりました。

Bさんは、自分だけが唯一の相続人であり相続手続は簡単に終わるだろうと考え、夫とともにAさんの生まれてから亡くなるまでの戸籍(除籍)謄本を持ってAさんの預金のある銀行に行きました。

すると銀行の担当者から故人の兄弟姉妹が相続人となる場合は故人の両親の生まれてから亡くなるまでの戸籍(除籍)謄本も必要だと言われました。

そこで、Aさんは、母と会ったこともない父の生まれてから亡くなるまでの戸籍(除籍)謄本を市役所から取り寄せ、再度夫とともに銀行に赴きました。

すると、銀行の担当者はBさんから受け取った戸籍関係の書類を持って奥に引っ込みました。しばらくして担当者が現れ、次のような驚くべきことを言いました。

「あなたのお父さんは10年前に亡くなっています。ただ、あなたのお父さんはあなたのお母さんと離婚後、別の女性と再婚し二人の男の子をもうけています。すなわち、Aさんの相続人はBさん以外に二人の異母弟がいます。

ただ故人の兄弟姉妹が相続人となる場合、父母を異にする兄弟姉妹(半血の兄弟姉妹といいます。)の相続分は父母を同じくする兄弟姉妹(全血の兄弟姉妹といいます。)の2分の1なので相続分(法定相続分)はBさんが2分の1、二人の異母弟がそれぞれ4分の1ずつとなります。」

それを聞いたBさんは、取り乱して「二人の異母弟は私たち姉妹との交流は全くなかったどころか、私たち姉妹の存在すら知らないはずです。そんな人たちが姉の遺産を取得するなんておかしいじゃないですか。」と銀行の担当者に詰め寄りましたが、銀行の担当者は「法律がそうなっているので、どうしようもない。ただBさんにだけ遺産を相続させる旨の遺言書があれば別ですが。」と答えました。

このときBさんはAさんが遺言書を書くと言ったのを無理やり止めさせたことを心底後悔し、銀行の担当者に「いったいどうやって二人の異母弟を探し出すんですか。」と力なく尋ねました。

すると、銀行の担当者は、「二人の異母弟の所在は判明しています。」と言いながら、おそるおそるタブレットをBさんとその夫に見せました。タブレットの画面には過去のニュースサイトが映りだされており、そこには兄弟が連続強盗殺人容疑で逮捕されたことが載っており、容疑者の名前と年齢が二人の異母弟と完全に一致していました。ショックを受けたBさんは夫に抱えられて帰宅し、相続手続は止まったままになりました。

その年のクリスマスの日、夫と3人の子どもたちは明るく朝からケーキ作りをしていましたが、Bさんの心はどんよりとした雲に覆われたままでした。昼ころ、玄関のチャイムが鳴りました。Bさんがドアを開けると郵便配達員が立っており、「B様へA様からの郵便物です。」と言って封筒を差し出しました。一瞬、エッ!と思ったBさんは「Aは私の亡くなった姉です。その郵便は姉の名を騙る不逞の輩が詐欺目的で送りつけてきたものに違いありません。」ときっぱりと言いました。すると郵便配達員は優しく落ち着いた口調で次のように話し出しました。

「これは或る民間会社が行っている『将来郵便』というサービスです。お客様が10年後までの指定した日に自分や大切な人に手紙を届けてもらうためのサービスです。その会社が然るべき時に預かっていたお客様の手紙を配達日を指定して郵便局に託し、お客様が希望した日に手紙が配達されるサービスです。この郵便物はA様が今年の4月にクリスマスの日を配達日に指定してその会社に預けた手紙です。」

そう言われれば、郵便物の宛先や宛名、差出人の名前は見慣れたAさんの字でした。Bさんは胸がいっぱいになりながら郵便物を受け取り、夫や子どもらが見守る中で開封しました。中には2枚の手書きの便箋が入っていました。

1枚目の便箋

「愛するBちゃん、私は来年まで生きられそうにないの。だから私はあなたが私の相続で困らないように遺言書を書こうと思ったの。

でもあなたが受け取らないと思って、クリスマスの日に遺言書を届けようと思ったの。たまたま同じ病院に入院している女性の弁護士さんと仲良くなって、その人に遺言書の書き方を教えてもらったの。

その人の名はあの小鳥遊心春(タカナシコハル)先生よ。そう多くの困っている人たちに救いの手を差し伸べてきた先生でマスコミに何度も特集が組まれたことのある先生よ。小鳥遊先生はBちゃんの力になると言ってくれているの。

小鳥遊先生はこの手紙をBちゃんが受け取る頃には退院しているはずよ。事務所の連絡先を書いておくので同封した遺言書を持って小鳥遊先生の処に急ぎなさい。」

2枚目の便箋は全財産をBさんに相続させる旨の遺言書でした。

2枚の便箋を抱きしめて泣いているBさんに夫と3人の子どもたちが声をかけました。

「お姉ちゃんからの最高のクリスマスプレゼントだね。」


コメント

故人の異父兄弟(姉妹)や異母兄弟(姉妹)が相続人となっている遺産分割協議は極めて難航するのが常です。それは兄弟姉妹でありながら相続が始まって初めてお互いの存在を知ることが珍しくなく、故人と父母を同じくする兄弟姉妹は故人と疎遠もしくは故人の存在そのものを知らなかった半血の兄弟姉妹(父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹)が遺産を相続することに納得ができないからです。

一方、半血の兄弟姉妹から見れば、法律に沿って遺産を相続することのどこが問題なのかという気持ちがあるからです。このような場合、あくまでも、冷静沈着に法律に従って遺産分割協議を進めるように努めるべきですが、なかなか難しいといえます。やはり故人が遺言を残すのが一番良い解決策といえるのではないでしょうか。

残念ながら遺言書がなかったという場合、裁判所で争うのではなく、ADRによる調停で遺産分割協議をすることも可能ですので、ぜひご活用ください。


プチ情報

文中「ある民間会社が行っている『将来郵便』というサービス」とありますが、公益財団法人日本郵趣協会がタイムカプセル郵便という名称で同種のサービスを行っています。配達そのものは郵便局が行います。ただし、利用者殺到のため現在新規受付はしていないようです。

公益財団法人日本郵趣協会「タイムカプセル郵便

また特定非営利活動法人「みらいぽすと」も同種のサービスを行っています。ービスの具体的な内容は同法人にご確認ください。

特定非営利活動法人「みらいぽすと